SSブログ

This Boy (Beatles)、理論の進化 [ジャズ日記]

Laika lady madonna.jpg
Leika and the Waiters/ Lady Madonna.1994。原曲 The Beatles. Lennon/McCartney.1963

2014年8月16日(土)
科学は刻一刻と進化し、古くなるが、芸術の天才には時間という天敵が存在しない。だからこそ僕らは1960年代のビートルズを自分の心情のように聴くし、400年前のシェークスピアに涙する。

ビートルズの天才ぶりを示すのは小さな、さらりとした名曲だ。「This Boy」はその中でも発表当時はB面だったが、時間とともに古くならない一曲だろう。

原曲はよく知られているから、今回は、レイカ&ウェイターズのカバーをご紹介する。アコースティックに編曲された説得力のあるシンプルな名演になっている。

 


 

芸術が進化しないのは、進化する必要がないからかもしれない。

シェークスピアの二番煎じを400年も続けても、人類は飽きたりしない。敵同士の家に生まれた純粋な男女が恋に落ち、悲劇に終わるというストーリーを私たちは繰り返し消費してきた。三角関係も恋愛小説の基本構造として、純文学から韓流ドラマまで使いつくされているが、まだまだその訴求力はとまらない。モーツアルトの切ない旋律も、あと500年たっても愛聴され続けるにちがいない。

それにくらべて自然科学、社会科学の進化は短期間で起こる。芸術は、人間内部のもっとも変わらない保守的な精神に訴えかけるが、科学は、人間の外部にある環境を理解し、変えるための手段であり武器のようなものだ。環境が変われば、人類は武器を持ち替える必要がある。

経済学は、少なくとも70年代末とリーマンショックからは大きく変わった。市場に対する基本的視点が変わり、伝統的金融政策(ケインジアン・アプローチ)から非伝統的な金融政策(マネタリスト・アプローチ)にとってかわられた。「失われた20年」ともいわれる長い不況を脱するために、ついに日本でも大きな舵取りが実行されたばかりだ。他の国が自動車に乗り換えたのに、いつまでも自転車に乗っていた日本の中央銀行(と政府)もようやく他の先進国とペースをあわせ始めた。

経営学はミクロなだけにもっと変化に富む。1970年代までの戦略論は1980年代になると、産業構造論をベースにした実証的な外部分析論=マイケル・ポーター教授にとってかわられた。当時、どん底にあったアメリカ産業界という環境に、ポーター理論が必要な起爆剤だったことはポーターを読んだことがある人なら感じるはずだ。

1980年代にアメリカで企業評価のビジネスをしていたある日本人によれば、当時のアメリカ企業は「大企業病」にかかっていて、安易な多角化をし(→売上高は増収、利益は減益)、組織の階層が深くなり、経営幹部は会社のジェット機で自分のペットを別の州の獣医に診せに連れていったりと「高コスト経営」の「官僚制組織」病が蔓延していた。

ポーター理論は、多角化企業に対してエントリーしていい「業界」としてはならない「業界」を単純な図式で明示できた(5つの力分析)。そしてエントリーした商売では、自社をどうすれば超過利益率のパフォーマンスにもっていけるかを示した(3つの基本戦略)。これはこの時代のアメリカ大企業の経営者にとって天の啓示ではなかっただろうか。

1990年代には、ポーターの業界分析の逆のアイデアが戦略論に登場し、流布していった。ワーナーフェルトやバーニーの資源ベース戦略論、いわゆる内部分析からスタートする理論だ。なぜ同じ「業界」のなかに儲かる会社とつぶれそうな会社があるのかを、示したのがこの理論の貢献だ。ハメルとプラハラードが「コア・コンピタンス」というわかりやすい概念をつけてこのアイデアは大衆化した。

戦略論では、今も外部分析と内部分析は補完的に使われる。別々の環境がうみだした異なる理論だが、どちらが「正しい」というものではない。ちょうど、投資の世界でファンダメンタル派とテクニカル派が混在しているようなものだ。あるばあいにはある理論のほうが正しい。

科学の場合は、現実に対する説明力の大きさによって「正しさ」が決まる。チャート分析ひとつとっても、25日移動平均線がしっかり機能している場合もあれば、200日平均線まで下ろさないと不安になるケースもある。否、そもそも何年かに一度、「平均」という概念さえまったく無意味になるリーマンショックのような相場もある、もちろん最低の相場環境だ。

環境がこれだけ変化してきたのだから、別の武器が必要になった。これが経営戦略論にとっての「進化」の実務的な意味だと思う。生物学の進化とはちがう。また忘れてならないのは、経営学の進化はつねに新しい顧客をもとめるコンサルタント・ビジネスの産物でもある。10年前の理論をいつまでも使われていては、理論をビジネスにしている業界はちっとも儲からない。次々と新しい戦略論が誕生する次第である。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。