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安定志向の人生と社会:日本 [経営学〔組織と戦略〕]

安定志向の人生と社会


2017年12月27日

「日本企業の稼ぐ力が低いのが問題だ、経営者はもっとリスクをとれ」と先日、テレビのコメンテーターが言っていた。今日、年末の買い物に出かけたときにふと思い出した。

たしかにROA(=EBITDA / 総資産)の時系列ボラティリティ(標準偏差)は日本企業は驚異的に低い。数年前のデータでは、オーストラリアが12.1、カナダが9.4、アメリカが8.8、韓国とドイツが5.1と5.7だったのに対して、日本はたったの2.2しかなかった。

だがこれは上下のブレが異常に低いという意味で、リターンだけでなくリスクも低いことを意味している。

(続き)

この数字だけをみると、日本企業は安定志向の経営と見えるだろうが、実は資源国はその価格が大きく変動するためボラが大きいことになる(オーストラリア、カナダ)。リスクが高い環境にいる企業のリターン(とリスク)がそれだけ大きく変動するのは、当然なのだ。価格が半減したりする原油価格を見てほしい。

ちなみにリターンをリスクで除して調整すると、オーストラリアとカナダはそれぞれ1.1と1.4になり日本は2.7になって成績は逆転する。

買い物の間にコーヒーを飲んだ喫茶店で、ポケットから『戦略的コーポレートファイナンス』(中野誠、日経文庫、2016年)を取り出してパラパラとページをめくると、上のようなことが書いてあった。


「もっと利益率をあげろ=稼げ」というが、リターン水準の裏側にはリスク水準がある。やたらリスクを取ったり、財務レバレッジをかけたりするのは日本企業がほんとうにするべき「グローバル・スタンダード」なのか、疑問なのだ。ましてやリスクのボラティリティが高い国の経営にフィットしている人材マネジメント手法を、接ぎ木のように導入してコストカットする経営者は、長期的にはコア・コンピタンスの競争力を失っていると知るべきだろう。

食品産業と半導体産業のリスク分散がちがうように、資源国と日本では経営手法が異なる、そうでなければならない。アメリカや韓国と我が国のリスク環境も異なる。人材とものづくり技術に長期的に向き合い、投資して、そこから差別化された製品を生み出すことが安定志向の日本にフィットした経営だった。これからはこの基本姿勢にオープン・マインドを加味すれば足りる。

今でも教室で質問すると、ほとんどの学生が終身雇用と安定性に手を上げる。これは将来も変わらないだろう。ある人が「正社員」の再活性化を説いているが、正解だと思う。今までのような、男性正社員、ゼネラリストの管理職志向のキャリアデザインはもう通用しないが、多様性のある男性女性の正社員(スペシャリスト育成コースを含む)による終身雇用型の安定したキャリア開発が望ましい。

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