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スイス旅行、投資、企業、ケインズ [ジャズ日記]

2015年10月11日
夏、チューリッヒで。旅行に重い荷物は最悪だ。かといって、12時間半の機内は確実に退屈する。この「スーツケースのジレンマ」を解決してくれたのが、iPad とキンドル。今度こそはこれだけ持っていこうと、毎回、軽装パッキングを試みる。

しかし、「まてよ」という思いが脳裏をかすめる。あの仕事を機内で片付けようか、いや滞在先のホテルで書けるのではないか、などという誘惑である。この「誘われてフラメンコ」に乗る私は、スーツケースよりもはるかに軽い。                                                                                

かくして私のスーツケースは、いつものとおり、やりかけの仕事の資料、その資料を精査するための専門書と論文、書きかけのノートとメモ、筆記用具一式などでいっぱいになる。そして、肩と腰で痛感するのは、「紙ってほんとに重い」。

スーツケースが終わると、その中身はすっかり忘れてしまう私は、機内持ち込みバッグにも「機内で仕事に飽きたとき用」の読み物を詰める。この夏はそれを軽くしたのは、自分でも人間が成長したと思う。ケインズと英語のペーパーバックのみ。

この夏の荒れ狂ったマーケット。ここはマネーの原点に戻ろうと思って、『雇用、利子および貨幣の一般理論』の岩波文庫版をカバンに詰めた。これは大正解だった。さすが、投資に成功した唯一の経済学者と言われるだけのことはある。危機的状況で読み直してみるとその慧眼がわかる。

ケインズが投資を「新聞紙上の美人コンテスト」に例えたことはよく知られている。玄人筋は専門的見地からではなく、群衆の平均的意見を予測して投資をする、という部分だ。この本にはもっと面白い分析はたくさんある。なぜボラティリティが高くなるのか、なぜ暴落と暴騰が繰り返されるのか、についての分析にも、ケインズがアームチェア・エコノミストではなくマネーの実務に携わった人であることを感じさせられた。

ひとつだけ印象的な箇所を紹介すると、人間の人生は長くない、と彼は書いている。だから平均的な投資家は、どうしても短期的な、手っとり早い金儲けに走りがちだ。素人ほど、将来の利益を高率で割り引いてしまい失敗する、という。だから素人は投機的であり、長期的に社会に利益をもたらすようなほんとうの投資ができない。群衆のセンチメントが合理的な期待収益率よりもおおきく作用する証券市場のしくみがある以上、これはどうしようもないことだ。なるほどと思う。

ケインズは、群集心理が投資市場を短期的投機で揺さぶるのに対して、制度としての企業はそうではないだろうと考える人がいたら、それはまちがっているという。資本市場が組織化された現代経済では、企業活動や国家事業まで投機家が牛耳るようになったと指摘した。

「投機家は企業活動の堅実な流れに浮かぶ泡沫としてならば、あるいは無害かもしれない。しかし、企業活動が投機の渦巻きに翻弄される泡沫となってしまうと、事は重大な局面を迎える。一国の資本の発展がカジノでの賭け事の副産物となってしまったら、なにもかも始末に負えなくなってしまうだろう。」 (ケインズ著、間宮陽介訳、岩波文庫版、上、p.220)

まさに「なにもかも始末に負えなくなってしまう」事態が、2009年のリーマン・ショックだったし、この夏、起こっている事態なのかもしれない。将来、2015年8月は「何ショック?」と呼ばれるのだろうか。 


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教授

ありがとうございます!
by 教授 (2015-10-12 18:27) 

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