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ディス・コミュニケーション(続) [ジャズ日記]

2009年7月12日(日)
前回の続き

相手校の上智大学Fゼミは2つのグループがプレゼンした。
「”かわいい”って何?」
「”キャラ”から見る個性の変容」
それぞれテーマ、切り口は異なるが、共通しているのは若者のディス・コミュニケーションの問題だ。

 前者は、「かわいい」という何にでも使われる形容詞に、若者の「優しさ」の変容を見出している。現代の若者は、おたがいに傷つけないように「かわいい」という言葉で予防していると説く。
 後者は、ギャル男、草食系男子、アキバ系、カメラ女子、などの「キャラ」類型がコミュニケーションを阻害しているという。一定の服装で、ステレオタイプのキャラをあてはめたら、それ以上のコミュニケーションの深化はできない。そういう報告だった。

 とてもおもしろいマーケティングの基礎研究のように思った。
 しかし組織論から、もう少し分析できる。これだけ価値観とライフスタイルが多様化して、1つの大学、1つのサークル、1つの企業や組織に多様なファッションや生き方が同居せざるを得なくなった今、組織は少しでも「標準」からずれた生き方を異端としてはじき出したり封印したりできなくなった。むしろ今の組織は、少しでも多くの異端を自己に統合化することで、自己の生命力や競争力を維持しようとしている。

「Diversity Management」で成功したIBMのような企業があるが、組織はメンバーの多様性をコントロールするどころか、多様性を競争力につなげる時代になった。そのために、「君は標準ではないが”かわいい”」とか「君は標準的なファッションや言葉遣いではないが、”ギャル男”だから当然だ」という見方で、エッジにのっかっているぎりぎりの存在を組織に統合しようとしている。組織は一定の秩序が必要だから、そうやってむりやりに秩序化していると言える。

ハーバート・サイモンは「現代経済は市場よりも組織によって成り立っている」と言っている。事実、世界経済は量的には組織による取引のほうが多いという経済学者もいる(J.ロバーツ『現代企業の組織デザイン』NTT出版)。組織をどうやって調整し、どうやって効率化するか。これは現代社会にとって根本的な問題だ。

組織を調整するために必要な膨大なエネルギーをコーディネーション・コスト(J.ロバーツ)と呼ぼう。コーディネーション・コストのなかでもコミュニケーション・コストは現代組織の中枢にある。「彼は有能だがちょっとつきあいにくいなあ、まあ”アキバ系”だから仕方ないか」というコミュニケーション・コストの節約の仕方はかなり一般化している。理解できない上司や同僚を「彼、キモかわいいね」というように。

それは日本では「B型の彼」とか「A型の彼女」とかいうステレオタイプ化で、社会が調整を図っているのと同じことだ。ドイツやフランスの友人には、自分の血液型を知らない人はたくさんいる。もっとも彼らは星座という調整方法があって、コミュニケーション・コストの節約をしている。

本当の問題は「かわいい」と「キャラ」の先にあるものだと感じた。
今日の日本で、若者層を中心に、そういうコミュニケーション・コストの節約、社会化の方法が行われているということは、どういう意味や結果があるのだろう、そいう問題だ。

「かわいい」という日本語のニュアンスをカバーするドイツ語は存在しない。英語やフランス語にもないと思う。そっくりなニュアンスがあるのは韓国語の「キオプタ」だ。 これは赤ん坊にもおじいさんにも使える「かわいい」だ。

しかし現代の韓国で、若者たちは、「かわいい」をそういうふうに乱発するだろうか。しないとすれば、なぜ日本では、若者は、そうしなければならないのだろうか。本当のコミュニケーションを犠牲にしてまで。「彼は草食系男子なんだ」という代わりに、自分の形容詞で「彼」を表現しようとせずに、コミュニケーション・コストを節約した結果は小さなものではないだろう。


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