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加藤周一「都市の個性」 [旅行]

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スイス・モンブラン(著者撮影)

2009年3月12日(木)
加藤周一の『著作集』(平凡社)に「都市の個性」というエッセイがある。著者らしい視点は、論文後半、都市の美しさを論じたところだ。工業化を急いだ日本政府と日本人の価値観を欧米と比べながら、日本の都市の個性を分析している。日本的感性というよりもコスモポリタンな客観性をもって、都市の比較論ができる人はこの世代では希有の存在だ。

最近の円高に、今年の春は、多くの日本人が海外に出かけるらしい。1ドル250円の時代に留学した者にとって、ヨーロッパや海外が近くなったことを心から喜びたいと思う。

たとえパッケージツアーでも、たとえパリやローマに行ってバールもカフェもクラブも入らなかったとしても、それでも行かないよりはたくさんの経験ができるからだ。

アジアもいいけれども、とくにヨーロッパの都市を経験することは、これからの日本を考えるうえで大きな指針となる。たとえば10日間のパリとローマ旅行から帰ってきて、「なんてことないじゃないか」と漠然と不満をもって成田国際空港に着く。リムジンバスや電車でふといつも見慣れた風景を見るとき、「あれ?」と誰もが違和感を感じるのではないか。

「日本の都市って、こんなだったっけ?」見慣れたはずの日本の町並みが急に雑雑として見える、そういう違和感だ。

考えてみるとなぜ人間は旅をするのだろうか。なぜ見慣れた景色と何不自由ない言語と文化を離れようとするのだろうか。苦労をしに行くようなものなのに、なぜ?

人間は自分以外の人生を生きてみることはできないから、故郷以外の空間を経験したいのだと思う。それは別の景色、別の言語、別の文化の中で生きることで、別の人生を疑似体験することだから。美しい町や風景にであって「もし自分がここで生まれていたら」と空想しない人がいるだろうか。

イギリスの美術史家が、どこかで、美しい風景を前にしたときの感動と恋愛感情は人類に普遍的なものだと書いていた。

人はいつまでも若くないし、病気もする。動けるうちに、そして円高のうちに、異文化を経験しておかないと。


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