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上海の期待と不安 [マネー]

上海の期待と不安

2015年7月20日
上海総合指数はようやく落ち着きを取りもどしたかに見える。6月下旬から7月上旬、朝、市場が開くのが怖かった。北京と世界があれほど反対の確信を持っていた、中国経済の「バブル崩壊」。ついに見える形で現れ始めた。

さかのぼれば、地方政府の財政疲弊、不動産バブルの高騰と崩壊、理財商品のバブルと崩壊、そして今年の中国株式市場のバブルと崩壊(少なくとも揺らぎ)、という「バブルリレー」があった。時間差攻撃でバブルの崩壊を食い止めてきたのが、中国の「一国二制度」経済システムだ。


 計画(政府)の側が自由(市場)よりも弱ければこの体制は意味がない。しかし政府が市場を完全にコントロールしてしまっては、この体制は単なる社会主義経済に逆戻りすることになる。共存をどうバランスさせるか、そこがポイントだ。あの3週間は市場が政府に優っていた。政府の対策は後手後手にまわり功を奏しなかった。だから市場は恐怖に支配された。 

報道によれば、かつて海外のアナリストが、中国における説明会で、バブルが崩壊したときの対策を議論しているとき、中国高官がスクッと立ち上がり、そんな議論は時間の無駄だと発言した。アナリストたちは、市場というのは上昇も暴落もあると説明すると、高官は「売らせなければよい」と怒鳴って席を立った。あの高官はいったい何を言っているのだろう、というのが海外の市場関係者の率直な感想だったそうだ。

今回の上海・深圳株式市場では「売らせない」政策が実行された。今さらながら中国資本主義の異質性を思い知らされた格好だ。問題は政策理論ではない、実態として、誰が得をして、誰が損をしたのかという問題である。そのためには少し背景を考えた議論が必要だ。 

マクロ経済
リーマンショックで先進国経済がボロボロになったとき、中国は4兆元(80兆円)もの大規模な景気対策を行った。あまりにも巨額なマネーが閉ざされた市場に流れ込むとき、2つの問題が起こった。1つはこのマネーを捻出した(半分)地方政府の疲弊。もう1つは公共投資バブル、不動産バブルだった。最初のバブルが崩壊しそうになったとき、中国政府は理財商品へとマネーを誘導し、それもあやうくなると今度は株式投資へとマネーの行き先を作った。

もちろんアメリカなど先進国のじゃぶじゃぶの緩和マネーが新興国に流入しバブルをあおったのは市場の通例である。こうして中国の経済成長率は高くキープされてきた。その暴落のリスクは「ニューノーマル」という最近の経済政策自体が自ら語っている。いやむしろ、世界が中国経済のソフトランディングを固唾をのんで見守っているのだ。

 

時価総額
中国の株式市場は今年5月末、株式時価総額ベースで5兆9千億ドル、東京市場の1.2培となった巨大市場である。いわゆるA株の上場1054社は、直近の純利益合計で41兆5千億円。これは東京市場1802社の純利益合計26兆9672億円の1.5倍。ただし中国市場はごく少数の銀行(14行)が純利益の59パーセントを占める固有の歪みがある。

(データ)時価総額(百万ドル) 2015年2月現在
1位 NYSE 19,490,633  世界比 29.55%
2位 NASDAQ   7,291,379      11.06%
3位 Tokyo       4,751,890        7.21%
4位 Shanghai   4,146,401        6.29%
5位 Euronext   3,544,319        5.37%
6位 HongKong   3,383,507        5.13%
7位 Shenzhen   2,478,214        3.76%

上海と香港の株式相互取引が始まったのは、2014年11月。これで海外投資家も香港経由で上海株に投資できるようになった。中国企業が発行する株式は、人民元建てのA株と香港ドル建てのH株があり、高騰したのはA株。Shanghai SE Composite Index とはこの2つの総合であることの意味だ。

投資家構成
中国市場はまた極端に個人投資家が多い市場でもある。理由は、外国人投資家と機関投資家の参入が制限されているからだ。その売買代金ベースで80パーセントを個人がトレードしている中国市場の特徴は、極端に「期待」と「恐怖」に支配されやすい市場であることだ。

期待の形成
上海総合指数は過去1年間で2倍半を超える急騰。不動産バブルの行き詰まり、理財商品問題を株式市場によって政治的に解決するという思惑が見え隠れするなか、昨年11月、利下げを実施、このあたりから急騰。
6月に入ると指数で5千を超えた。そもそも2500ポイントあたりから急上昇し、春先いったん4000ポイントあたりで踊り場を迎えたとき、普通ならここで時間か価格による調整をする。しなければ需給のバランスが整わないからだ。しかし、このとき政府広報である人民日報は「牛市(上昇相場)」として書き立て、個人投資家は政府が後押しするならまだまだ上がるという期待に支配され、セカンドギアにチェンジした。その期待を受けとめるべく政府が、投資家に複数の証券口座保有を解禁したのも4月だった。

中国の個人投資家は日経新聞によると、口座数にして2億人。これは全人口の15パーセント。しかも直近に口座開設した個人のうち、約70パーセントは高等教育を受けていないという。彼らの期待がどれくらいかというと、上海深圳の銘柄のなかにはPER(株価収益率)が100倍に達したほどだ。日経平均で14倍から17倍、ニューヨークダウもそれくらいだ。香港はPER10倍前後、だから中国は明確にバブルだった、2億人の期待がいっぱいにふくらませた巨大風船のようなバブル。いつ爆発してもおかしくないのだが、トップギアに切り替わっている相場はそれを気にしないものだ。

転落
もちろんいつまでもトップギアで走り続けることができる市場は存在しない。オランダのチューリップバブル、1929年の暗黒の木曜日、日本のバブル、どれもいつかはギアを落とし、相場は止まる。山高ければ谷深し、バブルのギアチェンジは突然やってくる。

今回、ある事業家が株に失敗して自殺したことがギアチェンジになったという噂がある。政府があまりに上昇しすぎた市場を規制しようとしたことがギアチェンジになったという話もある。どれも結果論に過ぎない。事実は、6月12日に最高値をつけた上海は、突然、暴落に転じたということだけだ。

信用取引が多く、個人中心の市場は、いったん下げ始めれば、恐怖が人々を支配する。「売りが売りを呼ぶ」急降下。英フィナンシャルタイムズ紙は中国市場は「ローラースケート・マーケット」だと書いた。 6月12日、5166ポイントの最高値からの急落を、政府は「売らせなければよい」という対策で止めようとした。しかしマーケットは下げ止まらず3週間で30パーセントも暴落した。その間、自殺者も報じられている。

心配なのは、セカンドギアあたりで銀行から借金して株に投資したまじめな学生達だ。無謀にも学費、生活費、彼らはそうした費用も株で賄おうとした。そうとう痛手を負った学生もいるにちがいない、残念だし悲しい。残念なのは、彼らにもう少しフィナンシャルリテラシーがあればと思うからだ。不動産でも株式でも、バブルの時一番してはいけないのはセカンドギアで相場に参入することだ。(これを「誘われてフラメンコ投資」と僕は呼んでいる。)

悲しいのは、彼らが失った金はもう戻ってこないからだ。信用取引では追い証がかかり、現物取引とちがって塩漬け株にできない、強制的に安値で決済される。その後株価が持ち直しても、強制決済されてしまった彼らの手元には今、銀行と証券会社への借金しか残っていないはずだ。未来のある若者だ、どうか学業を続けられればいいのだが。貧困から抜け出すには教育しかないのだから、学生の救済こそ北京が乗り出すべき政策だ。

政府の対策
政府はどうしただろうか。まず2兆円規模のETF買いは40兆円の市場に対して焼け石に水だった。上海深圳の上場企業数の半数、1300社が企業側の申し出で売買停止とした。こんな制度があること自体、驚きなのだが、実はこれはマーケットには逆効果だった、人々は売れる銘柄なら優良銘柄まで売り込むことになったからだ。
今回のバブル崩壊は今のところ担当局長の山西省への左遷と面子を顧みない政府の対策で下げ止まっている。ただし下落がどこで終わるのか、いつ終わるのかは定かではない。ローラースケートに人為的にかけたブレーキはいつかは焼き切れるはずだ。欧米の経済紙もこの点楽観視はしていない。

イラン問題とコモディティ価格
もう1つ、今気になっているのは、イラン核合意をうけて、原油供給量増加、原油先物下落というシナリオと中国GDP成長率下落(直近で6.9%)との流れで世界経済のシナリオがどう変わるかだ。ギリシアは所詮、ユーロ圏の2パーセント弱の問題に過ぎない。中国、石油は世界問題になる。もちろん本家アメリカの金利政策、ドル円為替相場、日本の輸出・輸入企業の業績にも直接かかわってくるだけに、つねに自分のシナリオの品質向上しないと不安だ。今年の秋は、世界経済が激変すると思う。


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