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コダック社の悲劇 Paul Simon, Kodachrome [経営学〔組織と戦略〕]

Simon_theregoes.jpg
Paul Simon/ There Goes Rymin' Simon. 1973. Columbia-Warner.

2012年2月5日(日)
上のアルバム
Kodachromeという名曲が入っている70年代の名盤。
先月のKodackの倒産についてThe New York timesのサイトにある解説ビデオでも、解説者がこの曲に触れていた。
 
kodak_george.jpg
(創業者、George Eastman Kodak, 1854-1932)
 
Eastman Kodackという会社はジョージ・イーストマン・コダック(写真)により設立された。貧しい家庭に育った彼は、父親の写真好きをビジネスにして大成功した。
 

 
クリステンセンの破壊的イノベーション
それまではプロの仕事だった写真撮影を、ジョージ・イーストマンは大衆化した。「鉛筆のように簡単に使えるような写真機」という彼の事業方針(今の戦略用語でいうビジョン)にコダックのビジネスモデルの本質がある。
 
これは他の分野でいえば、プロ用のオーディオ機器をアマチュアがまあまあの音質で簡単に扱えるようになるというイノベーションだ。価格の破壊的な低下がおこり、とりあつかいが破壊的に簡単になる。
 
そして「非消費者」とクリステンセンが呼ぶ、ニーズは合ったが価格や取り扱いが困難で顧客になれなかった大量の顧客層が市場に堰を切ってなだれ込む。まさに破壊的イノベーションを起こした。今でいうiPodでありiPhoneだ。 
 
福祉資本主義 
労使関係について、コダックは雇用官僚制の研究にもよく引用される、地域社会を支える福祉資本主義時代の名門企業となった。企画から製造、販売、アフターサービスまで、コダックは一貫して自社内に統合した。この点は、工場を持たない水平ネットワーク分業のファブレス企業であるアップルとは対照的だ。いわば地域の人々を雇用し、自治体に税金を払い、地域に貢献する、旧き良きアメリカの製造業の典型だった。
 
ジョージ・イーストマンは、1880年に写真の乾板を発売し、コダック社を立ち上げた。社員と地域(ロチェスター)を大切にしたイーストマンは、「仕事中、何をしているかによって、その人が何を所有できるかが決まる。仕事を離れたとき、何をするかによって、その人が何であるかが決まる」というような哲学をもって実践したビジネスマンでもあった。
 
彼は公私を分け、自分がビジネスの表に出ることを嫌った。だからあれだけの名士でも、地元でもボストンでも素顔のまま、他人に声をかけられたり握手を求められたりすることなく歩けたという。社長がスーバースターになるアメリカ企業は多いが、イーストマンのような経営者もいる。
 
彼は読書が好きで、仕事を離れた時間は読書に明け暮れた。

悲劇の理由 
1935年、コダックは35ミリカラーのコダクロームを発売した。それ以降、コダックは世界の写真業界をリードし、富士フイルムの猛追をかわしてきた。しかし組織は環境に依存する。デジタル化の波はグローバル化とともにこの会社をのみこんでいく。

1980年代から2000年代にかけて、コダックに何が起こったのか。グラフを2つ紹介しよう。崩壊の様子を知るには、それだけでも十分かもしれない。
 
1) Net income
Kodak_Netincome.png
 
これはネットインカムが落ちていく推移を示している。このサイトでは、ウォーレンバフェットの「持続的収益力はあるか」などの4つの投資基準(バフェット・スタンダード)に照らし合わせて、倒産直前のコダックを分析している。結論的に、皮肉たっぷりに「The Foolish conclusion」を出して推奨した。
 
2) Revenues-from three businesses 
Kodak_revenues1.jpg
 
こちらは今年の1月19日のもの。この分析によれば、コダックの3主要部門の売上高(上のグラフ)から、伝統的なフィルム事業(青の曲線)は、2007年から2009年にかけて、ゆっくりと下降している。この原因はデジタル化への対応の遅れと指摘している。
 
コンシューマー・デジタル・イメージング事業(黄色)はデジタルビデオ・カメラやインクジェット・プリント関連事業。つまり、知的所有権、ライセンスに守られている分野だ。
 
グラフィック・コミュニケーション事業(赤色)の高低差がもっとも激しく、2008年のリセッションにもっとも直撃された分野だった。これはさまざまな法人顧客部門で、工場、データセンター、商業写真、パッケージング、新聞、オフィスにおけるデジタルサービス事業である。
 
この人の分析の結論は、コダックは3つのモーターで走っていた。稼いでいるのはフィルムだけで、あとは足を引っ張っていた。経営陣も、環境の変化についていこうとはしなかったようだ。だから、フィルムだけでは他の2部門をひっぱりきれずに倒れてしまった。
(以上2つの海外の分析を紹介した) 
 
要するに
一般的に言われている敗因は、
  • デジタル化に乗り遅れたこと
  • 経営陣のスピード感不足
  • そこでスーパースターのCEOがやってきて、「選択と集中」を敢然と実施し、この企業にとって生命線だった技術力が失われていったこと(M&Aによるコア・コンピタンスの喪失)
  • そしてライバルの富士フイルムにはみっともないような訴訟をしかけて、時間稼ぎと妨害に注力したこと(余分な仕事を組織にやらせている間に組織能力が低下した)
などなど、失敗の原因はいくらでも指摘されている。経営陣のところはバフェット・スタンダードに抵触するはずだ。
 
ソニーと同じように、技術力が基盤を失ってしまうと、組織は漂流を始める。今のソニー株は金融株と同じ動きをするが、コダックもまた、医薬品に浮気をしてみたり、低画質のデジカメであきらめたりしているうちに、創業者がもっていた本質を忘れていったようである。
 
このサイトで繰り返し主張しているように、企業はヴィジョンをもって生命線とする。短期的利益にとらわれることなく、長期的展望から事業をおこなうことが組織マネジメントの基本のはずだ。 
 
2009年、コダクロームの生産終了。
2011年、株価急落、1ドル以下に。
2012年1月、チャプター11の適用を申請。130年の歴史を閉じた。
 

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