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グローバル化した映画産業と最小公分母効果 [ジャズ日記]

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2011年8月28日(日)

グローバル化は、世界によい製品をつくりだす効果があるのか? (写真:ベニス旅行からの1枚。ここはかつて世界の文化が出会う場所だった)

最初に、今、多くの人に読まれているコーエン(Tyler Cowen)教授の『創造的破壊』(邦訳作品社、2011年)のなかに出てくる一節を紹介しよう。

  • 「異文化間交易は、それぞれの社会を改変し崩壊させるが、結局はイノベーションを支え、人間の創造力を持続させることになる」(p.32)

 

コーエンからはフリードマンの「オリーブの木とレクサス」を思い出す。
 世界各地のローカルな文化(オリーブの木)は、標準化された富の創造装置(レクサス)によってなぎ倒されるだろう、それを拒否する地域はグローバルな富から見はなされて貧困に陥る、という20年前のアメリカのピューリッツァー賞ジャーナリストの主張だ。

  • グローバリゼーション(異文化間交易)によって、消費者の好みを形成する情報が増える。その結果、世界中で好みは多様化する。
  • グローバリゼーションのせいで、文化創造者たちは「最小公分母」に合わせた創作を行うようになる。つまり売り手は万人向けの製品を作り、世界中に販売するようになる。

コーエンはこれを「最小公分母効果」と呼ぶ。
 世界中の誰にでも理解できるもの、消費できる製品、使いやすいもの、まさに最小公分母を求めるのが彼のいうグローバリゼーションの文化的帰結だ。

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 1/3の視点から世界を認識する(たとえばイスラム文化)方法と、1/4の視点から認識するキリスト教文化とその他たくさんの文化に、ハリウッドの映画会社は映画を販売する。そのとき世界中が理解しやすく、感情移入が容易で、お金を払っても観たいという文化的消費が大量におこるようにするためには、最小公倍数で通分して、どの文化からも消費が容易なような製品にしなければならない。(写真:ミラノ中央駅内、朝)

 最近、ハリウッドはつまらない映画しか供給できていない(少なくとも専門誌はそう批評する)。
 文芸がひとつの世界観を表現し、それを他者に理解させ、感動させるものと考えると、「つまらない」映画なのはたしかだ。どのような国の人にも、どのような世代にも、どのような社会層にも、理解できるような最小公分母を表現すると、つまりは単純なラブストーリーかアクション映画、スパイ映画になる。

 スパイ映画の登場人物も、日本というよりも中国市場を意識して、アジア系の主人公を入れる。

 どの文化にも偏らない最小公分母を、グローバル製品は求めることになる。そういう理論はよく理解できる。
 文化的製品だけではないだろう、家電も自動車も最小公分母効果はある。その理由が固定費にあるというコーエンの説明も正しいと思う。(もっとも制作費がかかった映画は、知る限りでは、「スパイダーマン3」の2億5800万ドル。200億円クラスのハリウッド映画はCGを多用する今日では稀ではなくなった。それを何ヶ月かで世界中で回収し、ビデオ販売で二次回収する)

 そこから逆に考えてみると、最小公倍数に入らない数字(要素)はグローバル企業にとってはとても危険な数字になる。
 1997年、ナイキのシューズ「エアベーキン」のかかとにつけた図柄が、アラビア語では「アラー」と読めて、イスラム社会から激怒を買った。もちろんナイキにしてみれば、理解しがたかったことだろうし、偶然の不幸だろう。しかしこれは認められない。ナイキは製品をすぐに回収した。

 結局、グローバル化は文化を多様化させるのか、それとも標準化するのか。結論は、冒頭でコーエンの引用をした通りだと思う。


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