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英国離脱(Brexit)続き [経営学〔組織と戦略〕]

英国離脱(Brexit)続き

2016年6月25日(土)
昨日の欧州連合(EU)からの英国離脱決定は、さっそく日本企業にもその影響を拡大しつつある。今日未明(1:33)の「日経電子版」によると、英国離脱によって戦略見直しが必要な日本企業は、日立製作所(鉄道車両、原発建設)、日産自動車(サンダーランド工場、年間50万台) 、トヨタ自動車(年間19万台)、ホンダ欧州(年間15万台)、キヤノン(地域売上高、年間1兆円)、ソニー(サリー州など6カ所の拠点、全社売上高の1割弱は英国から)、など。

実際、英国離脱の直前までは、主要企業は「1ドル=110円」を想定していたところが52%だった。レンジの幅は、ファナックやトヨタのように105円からNECやウシオ電のように115円までだった。対ユーロでも125円想定のNEC、ダイキン、川重から115円のファナック、119円のトヨタなど。昨日からは「1ドル=100円」、「1ユーロ=110円」を見込むトレンドに一瞬で転換した。主要200社の経常利益は3.6%減少してしまうという試算もある。何よりも「想定外」であることが市場にショックを与える。「ブラックスワン理論」である。

 


Moody'sは英国ソブリン債(国債)の格付けを「stable」から「negative」に引き下げて、今回の国民投票の決定は英国に「a prolonged period of uncertainty」(長きにおよぶ不確実な時代)を予兆させると書いた(24 Jun 2016, Moody's HP; Financial Times)。EUの規則では、この場合、2年間、契約の見直し期間があるが、ムーディーズは「これから数年間」にわたって、英国はEUと貿易関連の契約の再交渉をしなければならないとある。その間、英国経済は非常に不安定で、自信を失って、消費と投資は低下し、成長は弱まるだろうと予測している。

Financial Times電子版は、世界の株式市場は、金曜日、2兆ドル以上の価値を失った、これは2007年以来最大の下げ幅だと報じた(昨日)。これは「knee-jerk move」(反射行動、過剰反応)であり、金融機関が熟慮して株を売ったという時間はなかった、アルゴによる自動反応だとも報じている。それは当然そうだろうと思う。

EU側ではどんな反応だろうか。ドイツの Die Welt(世界)紙は「ブラック・フライデイ」だと表現し、「neue Zukunftsszenarien 新しい将来のシナリオ」はやや陰鬱で、ユーロは危機に面している、と報じた。

ただ問題はもう少し大きい、構造的なものと僕は考えている。 

  • 問題1:政党政治の構造転換
    英国の保守党も労働党も、有権者から離れてしまっている。アメリカでも共和党、民主党ともに市民の利害をかつてのようには代弁できていない。日本も自民党、民主党(民進党)ともに同じことがいえる。

    英国は、階級社会だったころ、それぞれの階級を代弁する政党が「国民」の利害を調整した。資本家と労働者に分かれて、冷静な議論(民主主義の前提だ)を闘わせて、ときには行き過ぎることがあっても長期的には、国民全体の利害調整をバランスさせてきた。

    今日の英国には、資本家と労働者という階級よりも、移民あるいは難民という別の社会層が大きな存在感を持っている。新しい社会構造にフィットした政治制度はまだ生まれていない。そこでさまざまな歪みが生じる。経済格差、失業などはその典型例にすぎない。今回の国民投票は、その歪みの大きさを保守エリート層(キャメロン首相に代表される)が読み切れなかった、甘く見た結果だ。

    だから同じ事は、トランプ現象のアメリカでも、フランスでも起こる可能性がある。6月24日、フランスの極右政党、国民戦線のルペン党首は、フランスでも国民投票を行うべきだと演説した。オランダの極右政党、自由党のウィルダース党首も同じ意見を表明した。ポーランドやオーストリアなど同様の政党が台頭している欧州の現状は、大きな構造転換の最中になると判断して次の手を考えた方がよいだろう。若い世代に政党が魅力を失った日本も例外ではない。

  • 問題2:市民社会の揺らぎ
    欧米社会=近代民主主義社会は「Civil society」の発祥の地であり、他の国にとっての教科書的な役割を果たしてきた。そうでなければ米国が中国やロシア等に警告する「人権問題」は、そもそも米国に言う資格がなくなる。「世界の警察」は「世界の裁判官」でなければ正当性はない。

    経営理論史では、ドラッカーが典型的なのだが、「市民社会」を前提にして企業の経営者権力を制度的に正当化する考え方がある。しかしその前提となっている市民社会が揺らいでいるとしたら、歴史的事件だ。

    理性、合理的な討議、協調、博愛という「市民的徳」があって、利己的な利潤追求という「資本主義的機会主義」が正当化されることを忘れてはいけない。ホッブスが『リヴァイアサン』(1651年)で言った「万人の万人に対する闘争」状態を自然状態と考えれば、それを上からの権力によって制御するのが国家論であり、下から自律的に制御するのが市民社会論で、資本主義的な「神の見えざる手」(アダム・スミス)の原理につながる。

    英国は昨日、移民と難民を排除することを「独立記念日」(イギリス独立党の勝利宣言)だと勘違いしたが、それはホッブスの自然状態に回帰しただけの野蛮な宣言だった。そんなに遠い未来でなく、この勘違いは離脱派も残留派も含めて英国国民に大きなツケとして回ってくるだろう。その経済的・政治的停滞に英国国民は明日からでも備えるべきだ。

  • 当面の英国の課題
    まずは英国政府は自国債権と通貨をどう防衛するかがある。ただでさえ「暴れ馬」と言われるポンドは、実効為替レートで暴落するだろう。短期的には英国の輸出企業にはプラスだが、あくまで短期的なものだ。英国だけの問題ではないから、協調介入が見えてくるシナリオなのだが。

    中国との関係をどうするか。中国は輸出の20%を欧州に依存している。これから英国、欧州ともに経済力が弱体化することは避けられない。中国主導によって、今年初め、できたばかりのアジアインフラ投資銀行(AIIB)の主要メンバーの英国、そしてドイツやフランスも頼りない存在になってきた。中国経済が必死で持ちこたえているボクサーのような状態の今、これは強烈なカウンターパンチになる可能性はないのか。

    保守党の内部の亀裂をどう調整するか。いちばん注目が集まりそうなのは、キャメロン氏にとって裏切り者となった前ロンドン市長のジョンソン氏への批判がどう収まるかだ。彼の思惑どおり、ジョンソン氏は首相になれるのか、いずれにせよ保守党は修正不能な亀裂が入った。そもそも今回の国民投票も、もとはといえば保守党内の分裂から起因している。イギリスにとって保守党って何だ、という根本的な議論がおこるだろう。

 


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